相場を読む力より、続ける力。習慣・行動・思考法を扱った本から、50代の資産形成を支える土台を考えていきます。
この本を一言でいうと
「自分の正しさを疑える人だけが、学び続けられる」
著者アダム・グラントは、ペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学者。
原題は『Think Again: The Power of Knowing What You Don’t Know』
——「知らないと知ることの力」です。
本書が問うのは、知識の量ではありません。
すでに持っている考えを、どう手放すかです。
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心に残ったポイント3つ
① あなたは今、どの思考モードにいるか
本書の出発点は、人間が無意識に使い分けている3つの思考モードです。
- 牧師モード——自分の信念を形成し、それを確固たるものにしようと説教する
- 検察官モード——他者の思考や主張の矛盾を指摘し、間違いを明らかにする
- 政治家モード——自分の考えへの支持を獲得しようとキャンペーンを行う
そしてグラントはこう指摘します。
この3つを行き来している限り、考え直すという行為は生まれない。
自分の信念を貫き、他者の過ちを指摘し、多くの是認を獲得することに没頭していると、自分の見解が間違っているかもしれないとは思わなくなるからです。
そこで著者が提唱するのが、第4のモード——科学者モードです。
自分の考えを「信念」ではなく「仮説」として扱い、検証する姿勢を指します。
金融機関に30年勤務した経験から言うと、投資の失敗はたいてい前の3つのモードで起きています。
「この銘柄は絶対に上がる」と牧師になり、反対意見を検察官のように叩き、SNSでは多数派に寄る。
判断しているつもりで、実は自分の信念を守っているだけという状態です。
② 「知らない」と知ることの強さ
本書には、偉大な大統領たちの共通点が描かれています。
偉大な大統領はあらゆる分野に関する書物を読み、生物学、哲学、建築学、音楽などの知識を深めることに熱心だった。新しいアイディアに喜んで耳を傾け、古い見解を改めた。
そしてこう続きます。
偉大な思想家は、自分がどれだけ知っているかを自慢しない。むしろ、どれだけ知らないかに驚嘆する。
私は毎日、Wikipediaをランダムに読む習慣を続けています。
知らない分野の項目が次々に現れ、
そのたびに世の中は自分の知らないことだらけだと気づかされます。
グラントの言う「自信ある謙虚さ(confident humility)」とは、まさにこの感覚だと思います。
自分の能力は信じるけれど、自分の知識は疑う。この両立が、学び続ける人の条件です。
これは投資にそのまま応用できます。
知らないことを知っている人は、自分が理解できる範囲に投資対象を絞れるからです。
ウォーレン・バフェットが徹底しているのは、まさにこれです。
自分の知らないものには手を出さず、コカ・コーラのように自分が理解している会社に限定して投資する。
「手を出さない」という判断が、彼の富をつくりました。
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③ 考え直すもの、考え直さないもの
ここで、ひとつの疑問が浮かびます。
「考え直せ」という本書と、「感情を挟まず淡々と積立を続ける」という長期投資の原則は、矛盾しないのか。
読み終えて、矛盾しないと分かりました。
グラント自身が本の中で線を引いているからです。
意見にアイデンティティを置くな、価値観に置け。
つまり彼は「何もかも考え直せ」とは言っていません。
考え直すべきものと、そうでないものを分けています。
投資に当てはめると、こうなります。
| 考え直さない(価値観・仕組み) | 考え直す(意見・仮説) |
|---|---|
| 長期・分散・積立を続ける | 「今は割高だから待とう」 |
| 低コストのインデックスを選ぶ | 「この地域はもう終わりだ」 |
| 生活防衛資金を確保する | 「暴落が来るから現金化しよう」 |
左側は、歴史上の偉大な投資家たちが積み上げてきた原則です。
これは自分の思いつきで動かすものではありません。
右側は、自分の限られた経験から生まれた意見です。
こちらは疑うべきものです。
そしてもうひとつ、現場で何度も見てきたことがあります。
暴落時に「よく考えた結果、いったん売ります」と言う方の多くは、実際には考えた結果ではありません。
恐怖が、分析の顔をしているだけです。
本書は、その見分け方を教えてくれます。
自分の中に湧いた「考え直し」が、科学者モードから来たものか、それとも牧師モードの裏返しなのか。
この問いを持てるかどうかが、長期投資を続けられるかどうかを分けます。
👉 あわせて読みたい:エッセンシャル思考|99%を捨て、1%に集中する生き方(バフェットの「手を出さない判断」について書いています)
この本を読んで得られる変化
- 自分の意見と自分自身を、切り離して考えられるようになる
- 間違いを認めることが、負けではなく学びだと思えるようになる
- 「知らない」と言えることが、強さだと分かる
- 投資判断のうち、疑うべきものと守るべきものが整理できる
- 暴落時に湧く「考え直し」の正体を見抜けるようになる
こんな人におすすめ
- 自分の考えを変えることに、抵抗を感じてきた人
- 投資で「今回だけは違う」と思ったことがある人
- 知識はあるのに、行動が伴わないと感じている人
- 学び続けたいが、何から手をつけるか迷っている50代
- 長期投資の軸を、心理面から固めたい人
まとめ|再考は、ひとりでは起きない
グラントは、再考は自分の頭の中だけでは起きず、他者との関係の中で起きると書いています。
私は毎日Xで投稿し、毎週このブログで「書評」と「資産形成ニュース」を発信しています。
続けるうちに、自分の役割が少し変わって見えるようになりました。
世の中には自分の知らないことが山のようにあり、自分の知識と経験はごく限られたものです。
だからこそ、自分の中にあるものを語るだけでなく、世界中に散らばる情報を受け取り、咀嚼し、それを必要としている人に渡す。
そういう「つなぎ役」なのだと感じるようになりました。
情報を受け取り、考え、外に出す。
それは、再考のプロセスを公開しているということでもあります。
50代からでも、考えを改めることに遅すぎることはありません。
むしろ、積み上げてきたものが多いからこそ、手放す勇気に価値がある。
本書はその背中を、静かに押してくれる一冊です。
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